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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)528号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

三  原判決主文第一項前段中の「所有権移転請求権保全仮登記」とあるのを「所有権移転仮登記」と更正する。

事実

一  控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

被控訴人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、被控訴人において、甲第一〇号証の一・二第一一号証を提出し、当審における被控訴人代表者本人尋問の結果を援用し、控訴人において、当審における証人北川正、同武田憲一の各証言及び控訴人北川禎三本人尋問の結果を援用し、甲第一〇号証の一・二の成立は認めるが、第一一号証の成立は否認すると述べたほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。(ただし原判決三枚目表四行目の「所有権移転請求権保全の仮登記」とあるのを「所有権移転仮登記」、五枚目表一行目の「丕曲」とあるのを「歪曲」とそれぞれ訂正し、六枚目表三行目の「原告主張の日」とあるのを削る。)

理由

一  本件土地をもと控訴人北川個人が所有していたこと、右土地につき被控訴人が仮登記仮処分命令に基づき京都地方法務局伏見出張所昭和三八年三月一九日受付第四三七八号をもつて所有権移転仮登記を経由し、次いで控訴人両名が同出張所同年四月八日受付第五八二八号をもつて控訴会社のため所有権移転登記、控訴人北川のため買戻特約の付記登記をなしたことは当事者間に争いない。

また控訴人北川が被控訴人に対し本件土地を売渡す形式により昭和三三年九月二九日から昭和三四年九月二六日までの間被控訴人主張のように七回に亘つて代金として金四三八万円を受領したことは当事者間に争いないところ、被控訴人は右は単純な売買であると主張し、控訴人らは売渡担保であると抗争するので、右について判断する。

右事実と成立に争のいない甲第一号証、第三号証の一・二、第四号証の一ないし三、当審における被控訴人代表者本人の供述によつて成立が認められる甲第一一号証並びに原審証人北条寿栄子、同中田敬人、同志村光揚の各証言及び原・当審における被控訴人、代表者本人尋問の結果、原・当審における控訴人北川禎三本人の供述の一部(後記認定に反する部分は信用しない。)を総合すると次の事実を認定することができる。

本件土地は被控訴人が使用していたものであるが、控訴人北川は昭和三三年九月二九日被控訴人との間に本件土地を代金四三八万円で売買する旨の契約を締結し内金七〇万円を受領すると同時に右土地を売買する旨の不動産売買契約証書(甲一号証)を作成したこと、そして右金七〇万円はもちろん交付された金員はすべて被控訴人の帳簿上売買代金とされ、本件土地は被控訴人の貸借対照表においても被控訴人所有の固定資産とされている。しかして被控訴会社は元来控訴人北川がその個人営業を株式会社組織としたものであつて、右売買契約証書作成当時においてはその株式全部を所有していた。そこで会社資金を同人個人の用途に流用する際前記のとおり証書を作成し、かつ、記帳をするについても個人と会社をそれほど厳格に区別せず軽く考えていたものである。ところが昭和三七年に同会社の業績不振のため同控訴人が当時所有していた四五パーセントの株式全部を手放して代表取締役を辞任し、全く被控訴人と無関係になつたのであるが、その際被控訴人側に前記証書等の残つていることにつき何らの処置をもとらず、本件におけるごとき主張は全くしなかつた。

以上のとおり認定することができるのであつて、このような事実関係から考えると、当裁判所としては当初の証書の記載のとおり単純なる売買であつたと認定するほかはない。

甲第一号証に立会人として記載されている原審証人酒井伊之助及び原・当審証人武田憲一の各証言はいずれも曖昧でたやすく措信することができず、当審証人北川正の証言は伝聞に過ぎず、また原・当審における控訴人北川本人尋問の結果も前記甲第一号証の記載と対比するときは信用することができない。右本人尋問の結果によると、本件土地の固定資産税は右売買後も控訴人北川が支払つていることが窺われるが、右事実は未だ前記売買の認定を妨げるに足るものではない。また控訴人らは右売買が売渡担保であることの根拠として、本件土地の代金が廉価であると主張するが、前記のように本件土地は更地でないことに鑑みるときは本件全証拠によつても未だ売買代金が廉価であつたと認めることはできない。その他前記認定を左右するに足る証拠はない。

そして右売買契約当時控訴人北川が被控訴人の代表者であつたことは当事者間に争いのないところであるが、原審における証人中田敬人の証言及び被控訴人代表者本人尋問の結果並びにに右証言及び本人尋問の結果によつて成立が認められる甲第七号証によると、被控訴人取締役会は昭和三八年三月九日右売買契約を追認したことが認められるから、控訴人らの抗弁は採用できない。

そうすると、被控訴人は控訴人北川に対し本件土地につき前記所有権移転仮登記(右登記原因が本件売買であることは成立に争いない甲第一〇号証の一・二によつて認められる。)に基づく本登記手続の履行を、また控訴会社に対し右仮登記後になされ被控訴人に対抗することができない所有権移転登記、控訴人北川に対し右移転登記とともになされた買戻特約による付記登記の各抹消登記手続をそれぞれ求めることができるわけであるから、被控訴人の右本訴請求は正当として認容すべきである。

二  本件建物につき控訴人北川が前記出張所昭和三八年三月二六日受付第四七四二号をもつて所有権保存登記をなしたことは当事者間に争いない。

成立に争いない甲第二号証、第五号証、第六号証並びに原当審証人北条寿栄子、同中田敬人、同志村光揚の各証言及び原審における被控訴人代表者本人尋問の結果によると、本件建物はもと訴外大平工機株式会社が所有しこれを使用していたが、同会社は昭和三六年一月三一日被控訴人に対し代金三五万円で売却、退去したもので、当時控訴人北川が被控訴人の代表者としてその旨の建物売渡契約書(甲第二号証)を作成していることが認められる。

控訴人北川の、右建物は右太平工機株式会社の所有ではなく控訴人北川が所有していたとの主張に副う原・当審証人武田憲一、当審証人北川正の各証言及び原・当審における控訴人北川本人尋問の結果は、前記認定殊に甲第二号証に照らしたやすく信用することはできず、その他右主張を認めるに足る証拠はない。

そうすると本件建物の所有者たる被控訴人は右権利に符合させるため控訴人北川に対し本件建物につき所有権移転登記手続をなすことを求めることができるわけであるから、被控訴人の右本訴請求は正当として認容すべきである。

三  したがつて右と同旨の原判決は相当であり、これに対する本件控訴は失当として棄却し、民訴法八九条、九三条を適用し、なお原判決主文の一部を更正して主文のとおり判決する。

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